中村望月

サウナブームと言われる今、現役設計プランナーとして最も長くサウナ業界に携わってきたアクアプランニング代表・中村敏之と、25年に渡って活動してきた最古参の温浴専門コンサルタント、アクトパス代表・望月義尚が、日本のサウナの歴史と現在のサウナブーム、そして未来をテーマに対談しました。サウナビジネスに関わっている方やサウナファンにも知っていただきたい興味深い話が続々と登場します。全8回に分けて、アクアプランニングとアクトパスのホームページでリレー方式で公開していきます。

[ 目次 ]

第1回「サウナ業態は2極化する?」

第2回「フィットネスとサウナは真逆の業態」(アクトパスサイト)

第3回「お風呂でおでんが食べられたニュージャパン」

第4回「脱衣場からいきなりサウナ室?」(アクトパスサイト)

第5回「外気浴のニーズが高まっている」

第6回「若者が知らない究極のサウナ室と、投資のメリハリ」(アクトパスサイト)

第7回「ブームを終わらせないために~安全管理の課題」

第8回(最終回)「水風呂のバリエーションと、サウナブームのこれから」

第1回 サウナ業態は2極化する?

望月) アクアプランニング創業30周年おめでとうございます。

中村) ありがとうございます。

望月) 中村さんは40年以上に渡って温浴業界でご活躍されています。今回は、そんな業界の生き字引である中村さんが触れてきた数々のサウナ施設やかつてのサウナブームの特徴を振り返りながら、「今のサウナブームとこれから」について語りたいと思います。

中村) わかりました。確かに、設計士の目線を通した昔と今のサウナの話は僕にしか話せない部分だと思います。

望月) よろしくお願いします。

アクアプランニング中村

中村) まず、昔と今のサウナブームの違いは「お客様の消費行動の違い」に端を発している、ということを川崎のゆいるを計画した際に強く感じました。ゆいるの計画段階で、「とにかく客単価を上げること」が限られた条件の中で成功させるための最終課題として挙がりました。そこで思い浮かんだのが、僕らが「都市型サウナ」「駅前型サウナ」と呼んでいる30、40年前のサウナ業態でした。

望月) 当時、都市部にあったサウナ施設は本当に高客単価でしたね。

中村) 当時でも普通に5000、6000円という客単価が取れていましたよね。ですから、それらを参考にすることで、条件が厳しいゆいるでも高客単価が生まれると想定して計画しました。しかし実際にフタを開けてみると、昔と今のサウナーは「施設内の消費行動自体に大きな違いがある」ことがわかりました。30、40年前のサウナマニア達は、高い入館料でもきちっと払ってくれるし、入館すればマッサージやアカスリは必ず受ける。なおかつ最後はビールを飲んで、つまみを食べて…そこまで施設全体を満喫してから帰ってくれていましたから、本当に高い人は数千円どころか1万円を越える客単価になるっていうイメージがあったんです。しかし、今のサウナマニア達は全く異なる楽しみ方をしていますよね。サウナに対しては入館料としてそこそこの値段でもお金を払ってくれるんですけど、あかすりとかマッサージの利用率は僕が想定していた昔のサウナ業態と比べると格段に低いですよね。そこに関しては一番の違いかなと思いますね。

望月) それぞれのブームを担っているメインターゲットの年齢層が大きく異なることも関係がありそうですね。

中村) そうですね。やはり今のサウナブームの担い手は年齢層が若いですね。昔は駅前型サウナに行く人の大半が、40、50代ぐらいのいわゆる「おじさん」の域に達していました。彼らが仕事終わりに遅くまで外で飲み、帰れなくなったときにホテル代わりで利用していたっていう感じでしたね。だから沢山のご飯を食べるし、ビールを飲むといった使い方が主流だったんです。今のサウナブームと私が描いてた40年ぐらい前のサウナブームとは明らかに違うのはそこですよね。

望月) そのとおりですね。昔のサウナーはマッサージ、アカスリ、ビール、寝る…そういうことも含めて施設全体に目的がありました。一方で、今のサウナーはサウナ・水風呂・外気浴という「サウナ体験そのもの」に非常に特化した目的があります。私も20年近く「サウナブームが来るんだ!」と、一生懸命焚きつけてきました。かつてのサウナブームが蘇ってサウナファンが増えることで、衰退業種と言われていた都市型サウナが再び元気を取り戻して欲しいという想いもありました。それは、リラクゼーションや飲食を含めた「サウナ施設全体で過ごすことそのもの」を目的にしてる人が増えるのではないかという期待で煽ったところはるんですけど、結果的に起きてきた部分はそうではなかったというのは確かにありますね。

中村) 僕たちが若い頃のサウナ施設は「男性天国」という言い方がされていましたよね。例えば、お店によって銘柄は異なりますが、タバコが吸い放題でした。このお店はセブンスター、こっちはチェリー、ここはショートホープ…というようにお店によって決まった銘柄のタバコが机に大量に挿してあり、自由に吸える時代があったんです。煙草の銘柄で施設を選ぶ人もいたくらいですからね。 あと、ソフトドリンクも基本的にはフリーでしたね。カウンターの上にドンッとディスペンサーが置いてあって自分が好きなだけ飲むことができました。

望月) 懐かしいですね。施設内の娯楽もバラエティ豊かでしたね。

中村) そうそう。麻雀も借りられて勝手に自分達でできましたからね。麻雀協会からクレームが入ったので最終的には駄目になりましたけど。あと、シアタールームが当たり前に設置されていましたね。そこではいかがわしい映画が普通に上映されていて、無料で観ることができた時代でした。だから、望月さんが言っていた「施設の滞在自体に目的があった」って、まさにその通りでしたね。

望月) 振り返ると凄い時代でしたね(笑)

中村) 本当に平和な時代でした(笑)そういえば、従業員の人に「ここで寝てるから明日6時に起こして」って伝えると、広い休憩コーナーの中から見つけ出して起こしてくれたりなんかしました。今はリストバンドですけど、当時はロッカーキーを首からぶら下げていたので、それを目印にしていたのかもしれませんね。とにかく凄く平和な時代でした。今のサウナブームで流行っているような「浴室特化型サウナ」を作るのも面白いけれど、昔の「滞在型サウナ」を現代版にリメイクし直しても面白そうですよね。サ飯も食べないで帰っちゃうような人が多いとしたら、そこに魅力がある施設を作ってあげればもっともっと客単価が上がる、もしくはそういうことを目的にしたお客さんが来てくれるっていうようにはならないですかね。

望月) そうですね…まだそこまで今のサウナブームを支える層にサウナでの過ごし方が知られていないというのはあると思います。「ととのう」といったサウナ浴の効果に関する情報が先にパーっと広まって、そこに若い人たちがヒットしてくれたことは有り難いのですが、「本当はそれだけじゃないのにな」っていうもどかしさもありますね。

中村) 施設体験全体で楽しむようなサウナ施設を、現代のサウナーは喜んでくれるでしょうか?

望月) 徐々にわかっていくんじゃないのかなと思うんです。やっぱりサウナに入ったあとって「すぐ帰りたい」と思わないじゃないですか。「ちょっとだるくなってきた、ダランとしたいな。」というように思うはずですよね。そのときにくつろげる環境が提供されればハマっていく人が増えていくと思いますが、みんなこの部分を見落としている気がしますね。

中村) そうすると、サウナ業態自体が二極化するのかもしれないですね。サウナ設備に特化した小規模でキチンと「ととのう」ことができるようなサウナ施設と、昔ながらの良いところをもう一度現代風にアレンジして取り入れた非常に高客単価なサウナ施設が、今のサウナブームの先で共存しているかもしれないですね。これに関しては凄く有り難いなと思っています。というのも新型コロナウイルスの関係で、僕らが設計するときは収容人員に対してかなり気を使うようにしてるんです。密を避けるために1人当たりの専有面積を昔と比べて格段に広く取らざるを得ないんですよね。占有面積をたくさん取るということは当然収容人員が減るので客単価を上げなきゃいけないんですけど、普通に作っていたら上げる要素がないんですよね。そういう考え方からすると、今のサウナブームのもう一歩先にそういう形のものができてきて、それこそ5000、6000円、7000円という客単価を普通に取れるようになってきたら非常に良いことですよね。

第2回「フィットネスとサウナは真逆の業態」(アクトパスHP)に続く…